推しに左右されるようになった人生を、私はこれからも歩み続けるのだな

今日、後楽園ホールでは、仙台女子プロレス橋本千紘選手とマーベラス彩羽匠選手のシングルが行われる。

大好きな仙台女子プロレスの選手が見られる。嬉しい。

 

後楽園ホールはこの時期寒いので、仙女Tシャツを着なかった。というか、昨日洗濯して外に干しっぱなしでなんか冷たいし(※取り込まない怠惰)、着なくてもまあいいか。大丈夫。

そのとき私は、この試合の勝敗を、そんなに真剣に考えていなかった。

いつも重宝している裏起毛のパーカーを着て、外に出た。

 

さて。橋本千紘選手は今日、負けてしまったのだ。

 

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会場に入ると、赤い服に身を包んだ彩羽匠選手のファンのお客さんがたくさんいる。赤いサイリウムを有志のファンが配っていた。

やっぱりすごいなあ、人気だなあ、そらそうだよね。

 

興行がはじまった。

好きな選手がいっぱい出てくるので、楽しく見る。

朱崇花選手、赤井沙希選手、岡優里佳選手。みんな素敵でカッコいい。

 

そして、いよいよメイン。

試合が始まる。呼び込み、暗転。

 

赤いサイリウムを持ったファンは、一斉にそれをパキっとやって振り始めた。

なるほど、すごくアウェイな状況だ。

そこへ、自分のもつベルトをすべて持って現れた、橋本選手。

そのときですら、私は橋本選手が負けるかもなんて、1㎜も脳裏によぎらなかった。

それは、彩羽選手が負けるだろうって意味ではなくて、橋本選手が負けるのが想像できなかったということ。

これ、今思い返しても不思議なのだが、どちらかが勝つということはどちらかが負けるということなのに、「橋本選手は勝つ」とだけ私は思っていた。

「橋本選手が勝つ」ではない。「橋本選手は勝つ」、だ。

日本語は助詞の1文字が変わるだけで、こんなにも味わい深く文意が変わってくるから、おもしろい。

 

ただ、そんな私も、途中から気づいてしまう。

「ああ、そうか。これ今日、橋本選手負けてしまうんだ」。

 

そして私は、自分が仙女Tシャツを着てこなかったことをひどく恨んだ。

AAAWのベルトは、仙女の三人、DASH・チサコ選手、橋本選手、岩田美香選手がとったベルト。そう、仙女がとったベルトなんだ。

GAEAISMで初めて見た、仙台女子プロレスの皆さん。

私の心に深く突き刺さり、昨年の疾風怒濤の下半期を生き延びさせてくれた、仙台女子プロレス

その人たちが手にしたベルト。

 

3カウント。涙がぽろっと出てきたが、我慢する。涙目程度で済む。

駄目だ、マジになったら駄目だ、これは自分の社会生活に影響するやつだ。

耐えろ。

 

たまにあるんだ、プロレスの勝敗が生活に差し障ることが。

逆にいえば、推しが勝っているだけで、自分が強い人間のように思えたりする。

これは、自分の人生を生きられていない証拠でもある。

 

アバターっていうのは、何も、自分の姿形をした2次元のキャラクターではない。

私たちはいつも、別の何かに自分の魂をぴゅっと飛ばして宿らせて、その何かの一挙手一投足を見て、その葛藤や、復活と再生、活躍などなどを見て、自らを投影、自分の人生を「やっている」かのようにして、息している。この世界を生きるための処世術ともいえる。

いわゆる、推しとかオタ活とか、そういうのは、そういう魂の飛翔なんだ。自分の人生を真正面から生きるのは、あまりにも辛い。

 

でもそんなとき、自分が魂を宿らせた存在が、挫かれるととてもつらい。

負けるんだって気がついたときに、負けることを実感した。

負けるんだったんだ、今日は。

 

会場では涙を流さず済んだ。

強くならねばと思い、そのあと道場に行った。

すごい強いキックをする、自分より小柄な女性の蹴りをミットで受けて、鼓膜がじぃんとしてふらついた。自分のフィジカルの弱さを痛感すると、とたんに、さっきの試合のことも思い出され、悲しくなってしまった。魂を宿らせた私の弱さが足を引っ張ったような気さえしてくる。おかしな話だし、そんなわけないんだけど。

大丈夫か、私。明日、頑張って会社行ってくれよな……。お前の人生は、会社に行って、本をつくることだ。目的、あるじゃないか。やれよ……。

 

……とかなんとか、私が勝手に宿らせるとか、アバターなんだとか云々言ってる間に、橋本選手は、仙台女子プロレスの皆さんは、めちゃくちゃ強い人たちだから、私が仮託してこようがなんだろうが関係なく、これからも強く戦っていくんだよなあ。

 

私はそんなみんなの勝敗とかに勝手に左右されながらも、なんとなく生き延びよう。

落ち込まずに、仕事も道場もがんばって続けよう。